「肩が痛い」「腕を上げにくくなってきた」などの肩周りに現れる不調は、年齢を重ねると発生しやすいのではないでしょうか。
痛みを緩和させ、肩の動きをスムーズに動かせるようにしたいと考えても、どのような治療を受ければよいかわからないという人がいるかもしれません。
一般的に肩の痛みの治療にはさまざまな方法があり、なかにはヒアルロン酸注射で治療を進められる場合もあるでしょう。
そこで、本記事では肩の痛みにヒアルロン酸注射が有効かどうかを解説します。また、ヒアルロン酸注射にどのような効果があるのか、具体的な治療方法についても説明します。
肩の痛みにヒアルロン酸注射は有効?
肩の痛みに対して行われる治療は、症状に合わせてさまざまな治療方法があり、薬物療法・運動療法・理学療法が挙げられます。
ヒアルロン酸注射は薬物療法に含まれ、特に加齢が原因の症状に対して有効です。
肩の痛みが生じた場合は、重症の場合を除き、すぐに手術はしません。
まず行われる治療は、鎮痛剤の服用や痛みの度合いにあわせてヒアルロン酸注射やステロイド剤注射を打ち、痛みが緩和されるか様子を見ます。
特に肩の痛みに対しての治療は、ヒアルロン酸注射などの薬物療法とリハビリの併用からスタートするでしょう。
このように、ヒアルロン酸注射は、肩の痛みに対して有効な治療方法として取り入れられています。
ヒアルロン酸注射の効果は?
症状や痛みの度合いによって、肩の痛みの治療方法は異なります。
ヒアルロン酸注射は、鎮痛剤や湿布などで痛みが緩和されない場合に行われる治療方法です。
薬では痛みが取り除けないが、手術をするほどでもない場合に効果が期待されるのがヒアルロン酸注射です。
では、ヒアルロン酸注射には具体的にどのような効果があるのでしょうか。ここからは、ヒアルロン酸注射の効果について説明します。
痛みを抑える
ヒアルロン酸注射は、主に加齢が原因で発症する肩関節周囲炎などの痛みを抑制する目的で使用します。
ヒアルロン酸は、もともと人間の体内に存在する成分で、加齢にともない減少します。もちろんヒアルロン酸の減少だけが、肩の痛みにつながるわけではありません。
しかし、関節内の潤滑剤のような役割もあるヒアルロン酸が減ると、関節の動きが鈍くなりやすいでしょう。
関節の動きが鈍くなると摩擦が生じ、痛みの原因にもつながります。
ヒアルロン酸注入は痛みを抑える役割があると同時に、今ある痛みをこれ以上悪化させない働きもするのです。
動きをなめらかにする
ヒアルロン酸を肩関節に注入することで、動きをなめらかにする効果が期待されます。特に、肩の動きが制限される症状の場合に有効です。
ヒアルロン酸は軟骨や関節液などに含まれています。関節の動きがスムーズでなくなる理由に、加齢によって軟骨がすり減り関節液が少なくなることが挙げられます。
関節液が減少すると、関節の動きが悪くなったり痛みが出たりするのです。ヒアルロン酸注射は関節液を補い、軟骨を保護する効果が期待できます。
また、なめらかな動きが制限されると、余計な負担が関節にかかりやすいです。
ヒアルロン酸を注入することで、なめらかな動きにつながり、その結果痛みは軽減されるでしょう。
炎症を抑える
肩の痛みは、大きく二つの原因に分けられます。1つは関節の炎症が原因で、もう1つは肩関節の腱の断裂が原因とされています。
ヒアルロン酸は炎症を抑える効果が期待される成分です。そのため、特に炎症が原因による痛みに効果が期待されます。
炎症を抑えることで、肩の痛みも緩和されます。痛みが原因で肩の可動域に制限がかかっている場合、炎症を抑えるだけでも肩の動かし方がスムーズになるでしょう。
関節内の液を補充する
これまで説明してきたように、ヒアルロン酸は人間の体内に存在する成分です。そして、人間の関節内には、関節液の主成分としてヒアルロン酸が含まれています。
ヒアルロン酸は加齢とともに減少します。肩の痛みのいくつかの症状は、中高年に出やすい症状です。
ヒアルロン酸を注入することは、加齢で減少した関節液を補充する目的もあります。関節液が減ると、肩関節の動きがスムーズでなくなります。
ヒアルロン酸で関節液を補充することで、肩の痛みが緩和されやすくなるのです。
ヒアルロン酸注射で効果が期待できる肩の症状は?
肩の痛みはいくつかの症状に分類され、それぞれの症状に適した治療方法が選択されます。
症状の進行度合いによってはヒアルロン酸注射が適さず、手術を行う方が早い回復につながるケースもあるでしょう。
そこでここからは、ヒアルロン酸注射で効果が期待される4つの肩の症状について解説します。
変形性肩関節症
変形性肩関節症は、肩の関節にある軟骨がすり減ることで発症する症状です。変形性肩関節症が発症すると、肩関節の痛み・肩の可動域の制限・関節の腫れが見られます。
発症の原因は、肩関節の使いすぎ・脱臼・骨折などが挙げられます。
特に仕事などで長年肩関節を酷使している場合、年齢を重ねるごとに軟骨がすり減り、徐々に肩関節が変形してしまうでしょう。
加齢も原因ではありますが、大きな原因は使いすぎ・激しいスポーツ・腱板断裂・外傷(上腕骨骨折など)などでしょう。
この症状は軟骨がすり減り、関節内で炎症が起こります。炎症を抑えるために、ヒアルロン酸注射で治療を行う場合があります。
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
肩関節周囲炎は、四十肩・五十肩の呼称で知られている症状です。この症状が発生する原因は、はっきりと解明されていません。
しかし、加齢によって肩関節周囲の組織が老化し、炎症を起こすために発症すると考えられています。そのため、中年以降に発症する確率が高いです。
肩関節周囲炎は、肩の関節に炎症が生じ、その結果肩を動かす際の痛みとして現れます。肩の動きが制限されやすくなるため、日常生活の些細な動作に支障が生じやすくなります。
また、動かさない状態でも痛みを感じるケースがあり、特に夜中に痛みが増しやすく睡眠の妨げになるほどです。
痛いからといって動かさないことは、症状の悪化につながります。肩関節周囲炎は運動療法を行いながら、薬物療法を適切に取り入れる治療が一般的です。
肩関節周囲炎においてヒアルロン酸注射は、痛みが強い場合に取り入れられる治療方法です。
肩腱板断裂
肩腱板断裂は、肩関節を安定させるための筋肉である腱板の衰えや損傷から発生する症状です。
中年以降の男性の右肩に多く見受けられる症状であるため、発症は肩の使いすぎが原因とされています。
中年以降の場合、肩腱板断裂は日常生活の何気ない動作でも断裂が起きる可能性が高いです。
治療は運動療法と薬物療法で行われ、ヒアルロン酸注射も効果のある治療として取り入れられています。
ただ、ヒアルロン酸注射は痛みが軽減されてから行われる治療になります。
夜間痛が発生したり痛みが酷かったりする場合は、ステロイド剤や局所麻酔の注射が先に行われるケースがあるでしょう。
関節リウマチ
関節リウマチは免疫異常が原因で、関節に炎症が起きる病気です。中年以降の女性に発症する確率が高いとされています。
発症の原因は不明で、遺伝的要素が強い傾向にある病気です。
関節リウマチは、関節内部にある滑膜に炎症が発生し、関節の痛みや変形を引き起こします。
免疫以上に働きかける抗リウマチ薬や痛みを和らげる薬の服用が、主な治療方法です。薬の服用に加えて、ヒアルロン酸注射も痛みを緩和させる治療として取り入れられています。
ヒアルロン酸注射による肩の治療方法
肩の痛みを治療する場合、最初に取り入れられるのは、痛みや炎症を抑える鎮痛剤や湿布剤の投与が主な治療方法です。
ヒアルロン酸注射は、上記の投与でも改善が見られない場合に行われる治療です。
もしくは、激痛を軽減させるために強力な鎮痛剤を使用し、症状が落ち着いてからヒアルロン酸注射に切り替えるケースもあります。
注射の頻度は症状の度合いによって異なり、医師の診断のもと決定されます。
一般的に、ヒアルロン酸注射は1週間に1回の頻度で、続けて治療する場合は5回連続が上限です。
症状の具合を見て、それ以上の注射が必要な場合は間隔を空けてから打つか、ほかの治療方法の検討に移ることがほとんどです。
また、肩の治療でヒアルロン酸注射を打つ場合は、血管注射ではありません。肩の関節内に打つことになります。
ヒアルロン酸注射で起こる可能性がある副作用・リスクは?
ヒアルロン酸注射は手術と違い、肉体面でも精神面でも負担が少ない治療です。また、安全性の高い成分のため、注射を打つことに抵抗する人は少ないでしょう。
ただ、ヒアルロン酸注射のリスクについても、あらかじめ知っておくことは必要です。
ここからは、ヒアルロン酸注射で起こる可能性がある副作用やリスクについて説明します。
副作用やリスクが起こる可能性
ヒアルロン酸を体内に注入しても、基本的に副作用やリスクは少ないです。
これは、ヒアルロン酸が元々人間の体内に存在する成分であることに加え、治療で使用するヒアルロン酸のほとんどが非動物性由来のものであることが挙げられます。
ヒアルロン酸は一般的にアレルギー反応が出にくく、感染症などにかかるリスクが少ない成分です。そのため、整形外科の治療だけでなく、美容医療でも使用されています。
ヒアルロン酸は安全性が高いため、注射による経皮注入だけでなく、サプリメントなどの経口摂取も可能な成分です。
内出血
安全性が高いヒアルロン酸とはいえ、副作用やリスクが生じる可能性はあります。ただし、ヒアルロン酸を注入することで発生する副作用やリスクは稀です。
ヒアルロン酸注射で起こるリスクとして挙げられるのは、注射による内出血です。注射針を挿入した部分は、内出血が起こる可能性があります。
すべての人に発生するわけではありませんが、注射をする際のリスクとしては一般的な症状ともいえます。
内出血が起きても、症状は時間が経てば消えていき、長くても数日で治ることがほとんどです。
腫れ
ヒアルロン酸注射後に腫れが生じるのは、浮腫・アレルギー・感染症などが原因です。
これまで説明してきたように、ヒアルロン酸はアレルギーが少なく安全ですが、ゼロではありません。
また、注射部位の腫れは細菌感染による場合もあります。この場合、関節腔に細菌が感染し炎症を起こします。これをそのまま放置するのは危険です。
腫れの状態や期間によっては病院を受診したほうがよいケースもあります。
肩へのヒアルロン酸注射の費用は?
肩の痛みで手術はしたくないけれど、どうにかして痛みを緩和させたい場合、ヒアルロン酸注射での治療を行いたいと考える人はいるでしょう。
ヒアルロン酸注射は手術に比べると、心理的にも体力的にも負担がかかりにくい治療です。
痛みさえ緩和すれば、動作に不自由を感じない人にとって、検討しやすい治療方法ともいえます。
ただ、ヒアルロン酸注射は効果の継続性が期待できない治療でもあります。これは、ヒアルロン酸が一定期間経つと、体内に吸収される性質も持っているためです。
症状の度合いにもよりますが、ヒアルロン酸注射の効果を期待するのであれば、一定期間継続して打つ可能性も考慮するべきでしょう。
そこで気になるのが、肩へのヒアルロン酸注射の費用ではないでしょうか。
ここからは、ヒアルロン酸注射の費用について解説します。特に、保険適用と費用相場について紹介します。
保険適用について
治療費において、保険が適用されるか気になる点ではないでしょうか。実は、肩の治療でヒアルロン酸注射を打つ場合、すべての症状に対して保険が適用されるわけではありません。
整形外科において、保険が適用される症状は次のとおりです。
- 肩関節周囲炎
- 関節リウマチ
上記以外の変形性肩関節症・肩腱板断裂でヒアルロン酸注射を打つ場合や、保険適用の範囲内でヒアルロン酸注射の治療を受けたい場合は、事前に医療機関に問い合わせてください。
費用相場
肩の治療でヒアルロン酸注射を打つ場合、保険診療・自由診療によって費用に差が生じます。また、自由診療の場合、医療機関によっても費用が異なります。
次に紹介するヒアルロン酸注射の費用は、費用相場の一例になります。
- 保険適用(3割負担):500〜540円
- 自由診療:3,100円(税込)
ヒアルロン酸注射は保険適用であれば、安価に治療できる可能性が高いです。
しかし、保険適用で打てる症状は限られているので、ご自身の症状が保険適用で治療できるかどうかは実際に医師の診断を受けてから判明するでしょう。
また、自由診療は保険適用に比べると高額な傾向にあります。
しかし、保険適用に比べて治療できる症状が増えるため、保険適用でヒアルロン酸注射が使用できない場合は検討するとよいでしょう。
なお、上記のヒアルロン酸注射の費用にプラスして、初診料や検査料が発生することも覚えておいてください。
まとめ
日常生活の何気ない動作が肩の痛みによって制限されると、簡単に行えることも時間がかかったり、不便な思いをしたりするでしょう。
また、自然に治るかもしれないと治療を先延ばしにしてしまい、かえって痛みが長続きするケースもあるでしょう。
肩の痛みは症状の度合いによって、適した治療方法があります。
ヒアルロン酸注射は、痛みを軽減させるのに適した治療で、痛みを抑えつつ症状の経過を観察したい場合にも適しているでしょう。
受診する医療機関や症状によっては、保険が適用されるケースもあります。肩の痛みで悩んでいる人は、ヒアルロン酸注射の治療を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 肩関節外科|広島大学 大学院医系科学研究科 整形外科学
- わかりやすい五十肩・肩の痛み|東北大学整形外科教室
- 変形性関節症|KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 肩の痛みの原因は?|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- 変形性肩関節症|KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 肩腱板損傷|順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科
- 関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)|KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 代表的疾患 膝|高知大学医学部附属病院整形外科
- ヒアルロン酸注射|独立行政法人 地域医療機能推進機構 大阪みなと中央病院 美容医療センター
- 多血小板血漿(Platelet-rich plasma:PRP)を用いた変形性関節症治療|昭和大学 江東豊洲病院
- 「肩腱板断裂」|公益社団法人 日本整形外科学会